「筋の良い」リサーチ・クエスチョンを見つけるには?

本日はTXPリサーチフェスタという場で講演の場を与えていただきました。
お題は「Physician-scientistとしてのキャリア」。

いくつかいい質問がありました。ここで一つの質問について、回答をもうすこし深堀りしたいと思います。


質問:リサーチクエスチョンは大事か。どうやってそれを見つけるか。
回答1:リサーチの実践において、リサーチクエスチョンを設定することほど大事なことはありません。なぜならこれがリサーチ活動の最上流だから。
ピーター・ドラッガーもこう言ってます:「正しい答えではなく、正しい問いが必要である」(『想像する経営者』)

回答2:その設定の基準には以下の3点があります
– 解決した時のインパクトが大きい(例:研究領域にパラダイムシフトを起こす。患者・公衆衛生へのインパクトが高い)
– 既存のテクノロジーのギリギリのところで解決可能な境界領域にある問題
– 自分および外部ネットワーク(後者は拡張可能)のスキル・リソースにおいて解決・実行可能である

回答3: とはいっても、研究初心者にはこれらの基準自体がわからない。そこで必要なことは:
– 経験と知識のあるメンターにつく。優秀なメンターは長期的な視野から大きな問題をすでに知っている。そしてメンティーの育成度合いに合わせて(小ー中)問題を与えてくれる。ただしシニアメンターはその知識と成功体験に縛られることが多いので注意が必要。ここにはクリステンセンによる『イノベーションのジレンマ』と共通点があります。
– 研究領域のdomain knowledgeが必要。それにはある程度の時間と労力を投資する。最低1-2年か。つまり論文ごとにテーマを変えていると、ここが深まらない
– 講演で最も強調しましたが、自分で頭で考える姿勢を身につける。意外とこれは皆できていない。日々与えられた課題・リサーチをこなすだけでなく、より高い視座から人と違う視点 (out of the box)で考え行動する。常識を疑う。生意気で天邪鬼であることは大事。


参考になる二冊の書籍を紹介します。面白いことにどちらもコンサル出身の著者たちがその思考法をまとめたもの。
これらの思考法が我々の役に立つのには理由があります。すなわち、コンサルと研究活動は本質的な共通性があるからです:
1. 問題を設定する(問題とは、論点=イシューまたはリサーチクエスチョンと同じ)
2. 問題を解決する
3. 実行する

本質的な違いは一つ、コンサル は「他人」の経営問題に対処するのが仕事であるのに対し、研究者は「自分」の興味のある問題を自ら設定し解決することです(だから面白い!)。ともかく、よく書けたコンサル出身者の著作には学ぶところが多々あります。


まず一冊めは、前にも紹介したイシューから始めよ 安宅和人著。

これは僕の研究室での必修テキストです。いくつか文章を引用します。
– 「本当に優れた知的生産には共通の手法がある」
– 「「バリューの本質」は2つの軸から成り立っている。ひとつめが、「イシュー度」であり、2つめが「解の質」である 」
– 「「イシュー度」とは「自分のおかれた局面でこの問題に答えを出す必要性の高さ」、そして「解の質」とは「そのイシューに対してどこまで明確に答えを出せているかの度合い」 」
– 「絶対にやってはならないのが、「一心不乱に大量の仕事をして右上(注:バリュー度の高い仕事)に行こうとする」ことだ。「このアプローチを僕は「犬の道」と呼んでいる」
– 「採るべきアプローチは極めて明快だ。まずはヨコ軸の「イシュー度」を上げ、そののちにタテ軸の「解の質」を上げていく。つまりは「犬の道」とは反対の右回りのアプローチを採ることだ。まず、徹底してビジネス・研究活動の対象を意味のあること、つまりは「イシュー度」の高い問題に絞る 」
– 利根川進の師匠のリナート・ダルベッコの言葉:「どれほどカギとなる問いであっても、「答えを出せないもの」はよいイシューとは言えないのだ。「答えを出せる範囲でもっともインパクトのある問い」こそが意味のあるイシューとなる」


二冊めは論点思考: BCG流 問題設定の技術内田和成著。

より有名なのは前作の『仮説思考』でしょうか。しかし後者は経験のある臨床医(とくに救急医)であれば日々用いている思考法であるため、優先順位は落ちます。
いくつか気に入っている文章を意訳・引用します。

  • 問題設定には「筋の良し悪し」がある。「次の3つのポイントで問題を検討する」。それは「1) 解決できるかできないか、2) 解決できるとして実行可能(容易)か, 3) 解決したらどれだけの効果があるか」
  • 「最悪なのはすべての論点をある程度までやるというやり方だ」
  • 「幹部や上司が設定した課題・論点をあたえられても… 上位の課題・論点というところまでさかのぼって自分の問題として考えようとするかどうかで、自分の仕事に対するオーナーシップや、目の前の仕事に取り組むうえでの視野の広さ・視点の高さには大きな差が出るだろう」
  • 「実際の自分より二つ上のポジションについているつもりで仕事をする」

人生の時間は限られています。
自分の頭で思考し、自分だけのオリジナルな問題を発見し、解決しませんか。

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