グラントレビューの振り返り(備忘録)

せっかくかなりの労力を割いて”Mock NIH Grant Review Section”(詳しくは前ブログを読んでください)をやったので、皆の学びをメモするとともに共有します。

以下がデブリーフ(レビューワーの視点から学んだことの振り返り)および僕がstudy sectionで経験したことのまとめです。ここにはサイエンスを超えた(質の高いサイエンスはあくまで前提でありここでは議論しません)、レビューワーの心理やダイナミクスのようなアートに焦点を当てています。


  • レビューワーが研究内容・アプローチにexpertise/experiencesがあったとしても、他人のグラント申請を理解するのは簡単ではない(expertise/experiencesのないグラント申請書ならばなおさら難しい)。これを前提にグラント申請書は書かれなければいけない。
  • そもそもレビューワーはグラントレビューを楽しんでいるわけではない(普通は100ページを超える申請書を5本以上読むのは苦痛)。みんな通常の仕事のあと(深夜や週末に)いやいやながらグラントをレビューしている。つまり基本的にきちんと読んでもらえない可能性が高いという前提がある。(一応、金銭報酬はありますが雀の涙ほどです)
  • 結果的に、申請書に書いてあってもレビューワーが理解しなかったら・見落としていたら、それはレビューワーの責任でなくグラント申請者の責任である。それが現実。
  • ならばレビューワーの理解を助ける工夫・仕組みが必要。例えばわかりやすい図表(例:スタディコンセプト、解析フロー)があるといい。論文と同じでわかりやすい図表は数百wordsよりも効果的。
  • 同様にInvestigatorsにcomplementary expertiseとトラックレコードがあることを示すのは難しい(あったとしても)。これは意外とレビューワーに伝わりにくい。そのためにはspecificな例示(e.g., Hasegawa [integrated genomics/epidemiology], Camargo [asthma], Petrosino [microbiome], Liang [statistical genomics])や表などのシステムが役に立つ。
  • 段落はこまめに。およびわかりやすい(かつ簡潔な)タイトルは助かる。とくに段落のタイトルとしてaimsを何度も繰り返し登場させる事は効果的である。なぜならspecific aimsこそがグラントの骨格でありそれを理解させることには意外と重複が必要だから(レビューワーは忘れっぽい)。
  • 第一印象が極めて大事。むしろ第一感の好印象は成功の最低条件。アブストラクト・specific aimsページ(この2ページは勝負)で好印象を与えなければいけない。ここで一つでも大きなflawがあると(受け取られると)、それが勘違いであっても残りのページで挽回は不可能。第一印象で失敗すると、そもそも申請の後半はちゃんと読んでもらえない(どうせstreamlineされるグラントに時間を割きたくないというレビューワーの心理が働く)。
  • ゆえに批判のターゲットになりそうなものは、abstract/specific aimsページで早めに対応しておかなければいけない。例えばracial/ethnical diversityやsample sizeが弱点になりかねない場合は、abstract/aimsの段階で addressする(申請書の後半で挽回しようとしない)。
  • レビューワー同士のpeer pressureがある。声の大きいまたは権威者がnegativeな発言をするとそれに反対した意見やスコアリングは難しくなる。集団の心理ダイナミクスがある。
  • 論文と同じですがover-statementはしすぎない。逆にレビューワーによっては逆効果になる。
  • 100ページを超える申請書の最後にあるsupport lettersなど(ある意味あまり重要でない部分)まで読み込むレビューワーもいる。そこで手を抜くと(例:複数のlettersでフォーマットを使い回している)、レビューワーによっては気分を害する(そしてそれは良い結果につながらない)。
  • スタディパネルのほとんどのメンバー(つまり3人のレビューワー以外)は申請書を読んでいない、しかし彼らもスコアを提出する。ゆえにこのパネルの大部分を占めるnon-reviewersのスコアを平均0.5点でも稼ぎにいく必要がある。できることは少ないが、やはりabstractおよびわかりやすい図表が役に立つはず(non-reviewersはレビューワーの議論を聴きながら、この部分だけ流し読みする [少なくとも僕は])

グラントレビューの心理は、グラント申請の成功法の一側面に光を当てますね。


最後に。もちろん、もっとも大事なものはサイエンスとチームです。つまり、
– Significance
– Innovation
– Approach
– Investigators
– Environment
の5ポイントです。あとはfeasibility(実現可能性)でしょうか。

実際、NIHの選ぶレビューワーの質が比較的高い(およびシステムが標準化されている)ためか、preliminary scoreにおけるthree reviewersのinterrater agreementは予想以上に高いです(8割くらいの申請書でscoreのばらつきは±1におさまっている印象)。採択率10%ほどしかないR01グラントでは「まぐれ」はありません。

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