相変わらずの雑食な乱読をしています。あとかなりの積ん読も。。。
今回は、近ごろ読んだなかで印象に残った(軽めの)五冊を紹介します。
1. A Promised Land (バラク・オバマ著)
これはAudibleで聞きました。スピーチのプロであるオバマ元大統領がみずからナレーション。おすすめです(本は分厚くて読むのはムリでした)。本著は彼が上院議員のときに著した The Audacity of Hopeよりナレーションもこなれていますし、内容もより面白かったです。日本語訳でも『約束の地:大統領回顧録 I 』上下巻として出ていますが、英語の勉強としてチャレンジしてもいいかもしれません(政治家オバマは聴衆ごとにアクセントまで変えることができます。この本での彼のナレーションは聞きやすく、単語レベルはところどころGREレベル?だと思います)。
本著はオバマの家族のルーツからはじまり(思想背景が説明される)、連邦上院議員選、大統領選、そして大統領一期めの回顧録。
なによりの魅力はオバマの人柄、家族と友人への愛情、そして「社会をより良いもの」にするという希望にドライヴされた生き方。
一方で彼の政策・政治についても詳しく述べられています。僕はこれらに関しては素人なので批判的吟味はできません。とはいえ回顧録ですから(少しは)自己防衛的に書かれているはず。オバマといえども2-3割は差し引いて、もしくは多面的に読んだようがよさそうです。たとえば、オバマのアフガニスタン政策については、現地で亡くなられた中村哲先生による『天、共にあり』は紛争に巻き込まれるアフガン市民の視点から描かれています(これも名著で感動します)。また下で紹介するマイケル・サンデルの著作でもオバマ(と内在するメリトクラシー)が痛烈に批判されています。
ともあれオバマ元大統領は個人的に思い入れがあります。彼が大統領となった2008年は僕がMGH/ブリガムでレジデンシーを始めた年。選挙戦あたりでは同僚たちが”Vote”とついたバッチをつけ、時代が熱狂のさなかにありました。政治学的にいえば「政策の窓」が開いた瞬間だったのでしょう。
あなたの夢は何ですか?
後半編の出版が楽しみです。
2. The Tyranny of Merit: What’s Become of the Common Good? (マイケル・サンデル著)
『ハーバード白熱授業』で有名なサンデル教授。基本的な考え方もリバタリアンではないため、僕を含めた日本人には親しみやすいと思います。本著の日本語訳『実力も運のうち 能力主義は正義か?』も最近出版されて話題になっているようですね。
僕はこの本もAudibleで聞きました。サンデル教授がみずからナレーションしています(悪くはないが、スピーチのプロであるオバマにはかなわない)。
この著作では、「リベラル」が唱える性別・人種・思想の多様性の尊重も「有能なエリートに限られる」という条件つきなのか? そのメリトクラシーが多くの非エリート層を取り残したのではないか?(そして非エリート層の怒りと不信がトランプ政権を二次的に産んだ)という問題提起がなされています。
これは個人的体験とも一致します。アメリカ人エリートの学歴主義・メリトクラシー(能力・業績主義というのでしょうか)にはカルチャーショックを受けます。アメリカのそれは日本の比ではありません。リベラルの闘士を自認しているようなハーバード公衆衛生大学院の学生でも、公正(equity)を謳った舌の根が乾かないうちに職業差別発言をしたり、それがクラスで問題とされず完全にスルーされたりと。。。
大学院に留学していたりラボで研究していたりだと、知り合うのはMDかPhDを持った「超エリート」ばかり。このアメリカのバブル内ではハードワーク・能力と繁栄が直結した理想郷に思えます。一方で救急外来で働いていると、まったく違う「アメリカ」に出会います。日々接する多くの患者さんはさまざまな理由(ハードワークであったとしても)で「持たざる」ものたち。メリトクラシーは後者を置き去りにしてきたのかもしれません。
ポピュリズムが台頭する日本にとっても対岸の火事ではすまなくなってくるはずです。
3. ゼロ・トゥ・ワン 君はゼロから何を生み出せるか (ピーター・ティール著)
ベンチャーキャピタリストによるビジネス書。僕はシリコンバレーの人たちの良くいえば積極的、悪く言えば地に足のつかない躁気質がやや苦手(彼らと話していると倫理観を共有できない感じがする)。食わず嫌いで手にとっていなかったこの書物、実は科学者(もちろんビジネスに関わる人)にとっても応用できそうです。薄い本ですからさくっと読めます。
3つ共感した言葉は:
- 「賛成する人がほとんどいない、隠れた事実は何か?」 (科学者であれば、誰も研究しないような BIG questionは何か?)
- 「競争しないで独占せよ. 競争の激しい市場では収益が消失する」(科学者であれば、他人のやらない研究分野を開拓せよ)
- 「小さな市場から始める。次に関連する少し大きな市場に拡大する」 (僕の場合では、インパクトは高いが競争相手のいない乳児の細気管支炎から始め、よりインパクトの高い喘息に移行する)
関連する書ではインテルのCEOであったアンドリュー・グローブによる High Output Management も悪くなかったです。こちらはミドル・マネジャー(中間管理職)の日々の働きかたが紹介され実践的。約30年以上前の出版ですから、ビジネス書としては古典と言えそうです。
あなたにとっての「隠れた事実」は何ですか?競争相手のいない分野はどこですか?
4. What You Do Is Who You Are: How to Create Your Business Culture (ベン・ホロウィッツ著)
マネージメント本という括りに入るのでしょうが、本著は組織の文化に注目しているところがユニーク。
その文化をリーダーがどう更新・維持していくか、という点に主眼があります。
アメリカ(最近は日本も?)の組織は “mission”とか”value”が好きですよね。しかし本著では、日本の武士道などを引用しながら「組織の文化はmission statementで形成されるのではなく、日々の行動によって形作られる」というところにエッセンスがあります。僕も父親の影響で『葉隠』が好きだったので共感するところがありました(三島由紀夫による『葉隠入門』は必読です)。
3つ印象に残った言葉は (意訳してます):
- 社員の記憶にいつまでも残るのは業績ではない。残るのは組織の文化・気質であり、そこでどんな人間になったかである。
- 文化とは価値観ではなく、行動規範であり実践の積み重ねである(まさに『葉隠』。日本人にはなじみ深い「リーダーは背中でひっぱる」というやつですね。一方でアメリカ人は「スピーチでリードする」ところに重心あり)
- 組織の文化は戦略投資だ。リーダーがみていないところで組織が正しいことをするための投資なのだ
反省させられる一冊でした。
5. 経済学を知らずに医療ができるか!? 医療従事者のための医療経済学入門 (康永秀生 著)
東大SPHの康永先生による著作。医療経済系の類書はいくつかありますが、これは教科書的というよりは多くの医療従事者のために書かれたすばらしい啓蒙的書籍。
日本の将来の医療財政危機と医療体制崩壊を回避するという問題意識から、日本の事例を多くとりあげてわかりやすく解説しています。
僕は一度挨拶したくらいで康永先生に教えていただく機会はまだありません。しかし本著からは先生の人となりが伝わってくるように思えますーつまり、正義感が強く、自分にも他人にも厳しいプロフェッショナル(僕の勝手な想像ですけど)。最終章「持続可能な医療システム構築」には日本の医療者へのメッセージ。そして日本の誇る経済学者、宇沢弘文(故人)による社会的共通資本論の具現化への提言で締め括っています(宇沢先生による『経済学は人びとを幸せにできるか』は入門的な講演集)。
最終章にはプロフェッショナル・医療者への暖かいながらも厳しいメッセージがあります。姿勢を正される一冊でした。
おすすめの本があればコメント欄で教えてください!