先日online firstでChestから出版された論文(Reduced risk of acute exacerbation of COPD after bariatric surgery: a self-controlled case series study. Chest. 2018; 153: 611–617)がEditorialで取り上げられました。
http://journal.chestnet.org/article/S0012-3692(17)32720-4/fulltext
僕は米国のデータを使っているので、研究室のプロジェクトに沿いつつ、(特に)米国において重要な視点で論文を書いています。肥満はその典型で、日本人からすると肥満?肥満手術(bariatric surgery)?そんなに大事なの?というのが本音かもしれませんが、こちらでは肥満が人口の35%に達しているため重要な問題となっています。COPDが重要であることに関しては言わずもかな(世界の死亡原因の第3位)。日本でもCOPDは増えていますし、今ちょうど禁煙の話もトピックスですね。
救急外来ではよくCOPD急性増悪で来院する患者さんを目にしますが、日本では痩せている人が多い印象です。しかし米国では肥満のCOPD患者も多く、非常に大きな問題となっています。有名な話ですがCOPDをはじめとするいくつかの疾患ではobesity paradoxと言う報告があり、「肥満の患者は予後がいい」と言われてきました(Landbo C. et al. Am J Respir Crit Care Med 1999)。しかし、本当に肥満がCOPDにとっていいのか?というのが最近の論点であり、近年「やはり肥満はCOPDによくない」とする論文が出てきました (Lambert et al. Chest 2017)。肥満が重要な問題点であるにも関わらず、このようなconflicting evidenceがあるのが現状です。
そこで今回、肥満のCOPD患者が肥満手術を受けると、術前2年間と比べてCOPD exacerbationによる救急受診や入院が術後2年間、大幅に減ったという報告しました(オッズ比0.34)。
このEditorialでは序盤に”The effect of obesity and metabolic dysfunction on outcomes in COPD has not yet received a great deal of attention, and so the study by Goto et al is singularly important in providing compelling data that weight loss surgery decreases the risk of being hospitalized for a COPD exacerbation.”と非常に嬉しいコメントをいただいてます。大事なのは、「COPD患者は肥満手術を受けろ」という単純な話ではなく(それもありますが)、
1. 肥満が”reversible”なCOPD急性増悪を改善しうるfactorであることを示した
2. 肥満とCOPD exacerbationのcausal associationを示した
という点です。
本研究では自己対象症例研究(self-controlled case series analysis)を使っています。この研究手法は簡単に言うと「過去の自分とあるイベントが起きた後の自分を比較する」手法で、利点として「過去の自分が比較対象」なので、時間であまり変化しない交絡因子の調整が不要であるという点です。肥満やCOPDなどは遺伝子や生活習慣などに大きく影響されますし、それらの因子を全て調整するのは困難です。そこでこの研究手法を用いることにより、それらのtime-invariantな交絡因子を考えなくてすみます。そして、正確にははっきりと言えない部分もありますが、時系列においての前後比較なので、通常のcross-sectional studyではどうしても問題になるcausal inferenceに関してもアプローチが可能と言う点です(相関と因果は違うという話です)。
Whatever the mechanism, the current study is important because it lends strong support to recent studies suggesting that obese patients with COPD are at increased risk of severe exacerbations and also suggests that this is a reversible risk factor
まあ細かい話はさておき、「肥満のCOPD患者はやせた方がいい」と言う知見に関してstrongly supportな研究であると言うことが評価されています。現場の救急医からはピンとこない話かもしれませんが、現場での治療のみならず、患者さんが救急外来を受診しなくて済むようにするという視点で見ると面白いかもしれません。